山の魅力と安全登山の情報発信基地 ―長野県山岳総合センターについてご紹介ください。 傘木靖所長（以下・傘木）：1960年頃から日本で登山ブームが起きました。登山を楽しむ人が増えた一方で、登山者の知識や技量不足による遭難や、モラルの低下による自然破壊も進みました。そこで1969年、山岳域での遭難防止と自然保護への意識を普及・向上することを目的に、北アルプスを望む大町市に設立されました。2012年からは、開催する講習会を大幅に増やし、2019年には、創立50周年を迎えました。 京屋仁さん（以下・京屋）：具体的には、実際に山に登って読図（地図や地図アプリの読み方）をしたり、動けなくなった時のビバークの技術を学んだり。冬山なら雪洞の作り方や雪山でのテント泊の仕方など…。ほかにも地質を学んだり、おいしい山ごはんの作り方の講習会も開いたりしています。季節や年齢、登山レベル、リスクに応じた、いろいろな講習や研修・イベントを開催しています。 傘木：登山者が計画の段階で事前に相談できる「LINEで登山相談」というサービスを、2021年から始めました。服装や装備、ルート設定、今の山の状況など、気軽に相談できます。特に若い人からの相談が多いですね。また、you tubeチャンネルも開設して安全登山のノウハウを配信しています。

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  わくわくチャレンジ教室「湯俣の自然を楽しもう」
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  信州の山で学ぼう～唐松岳～
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  親子スポーツクライミング教室
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  雪山テント泊登山を学ぼう

―ボルダリングの施設もあるようですね。 京屋：高さ3ｍ、幅10ｍのボルダリング壁がセンター内にあります（1回・150円）。利用も増え、人気の高まりを感じます。キッズ向け講習も開催しています。ほかにも、近くの大町運動公園には人工岩場があります。岩場は15メートルの高さがあり、スポーツクライミングにも対応した壁もあります。利用にあたっては、安全な利用のために、事前にロープワーク等の技術の確認を受ける必要があります。 傘木：京屋くんはヨーロッパでの経験もある、クライミングのスペシャリストです。

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  センター内でクライミングの練習もできる
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  シューズレンタルも可能

欧州のアルプスにはない懐の深さが魅力 ―山岳県として知られる長野県ですが山の魅力は何だと思いますか。 傘木：高校の部活で本格的に登山を始めたためか、仲間と登ることが楽しいですね。励まし合いながら登れば、苦しさは半減します。苦労の末、登り切った達成感は仲間と共有でき、何倍もの喜びになります。 京屋：私は単独登山が多かったです。山は私たちが日常を過ごす家や会社、学校などとは、景色や空気、地質、植生…など、まったく違った世界。一人で登って「この別世界に一人きりだ」という感覚に浸るのが好きです。日頃の喧騒から離れて、本当に心がリフレッシュされます。家族を持った今は休日に親子で、里山などを楽しむことが多くなりました。 ―対照的ですね。京屋さんはフランスで生活していたそうですが、ヨーロッパと長野県の山の違いは何ですか？ 京屋：2年ほどフランスで、山の勉強をしてきました。ヨーロッパの山は岩場、断崖が多いのが特徴で、その点では中・上級者向けといえるかもしれません。対して長野県には3000ｍ級の山から、小学生が遠足で登るような低山、山菜取りが楽しめる里山まで、いろいろな山が身近にあるので、子どもから中高年、上級者・ベテランまで楽しめます。また、春夏秋冬それぞれに表情が違うのも魅力ではないでしょうか。 傘木：富士山が見える山が多いのも長野県の山の特徴だと思います。ほかにバックカントリーや沢登り、クライミング…。楽しみ方はバラエティーに富んでいます。

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  バックカントリーなど季節ごとに山を楽しむことができる
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  里山では山菜採りを楽しむひとも多い

―最近の登山人気の理由が分かります。一方で山岳遭難のニュースも増えました。山にはどのような危険がありますか？ 傘木：遭難としては道迷い、転落・滑落によるケガ、高山病や熱中症、低体温症といった病気などがあります。原因はさまざまですが、いずれも日頃のトレーニングや登山計画など、事前にしっかりと点検・準備をしておけば避けられる遭難もあります。特に、健康志向の高まりから中高年の登山者が増えていますが、まず自分の体力を過信しないことが大事です。そして事前の体調管理と装備の確認はしっかりとお願いします。もちろん、悪天候時には登らないことです。2023年、山での遭難による死者は約40人。これは交通事故の死者数とほぼ同じです。登山はそれだけリスクが高いと言えます。里山だから、日帰りだからと油断しないでください。 京屋：コロナ禍の影響で、安心感のあるアウトドアの一つとして登山が一般化し、登山のリスクへの認識が薄い人が、準備と技量不足から遭難したり、ケガに遭ったりするケースが多いのではないでしょうか。また、SNS上に幾つもある山頂からのきれいな写真からはリスクを感じづらいですが、天候が悪化するとどうなるかを知り、備えることも大切です。 まずは自分を知る 「グレーディング」を登山の参考に ―山でのリスクを回避するにはどうすればいいでしょうか？ 傘木：まず、「山を知る」「山に学ぶ」という意識が大切だと思います。例えば、天気（天気図）や地図を読む技術を身に付けることです。滑落の危険は、体力を付けたり山での歩行技術を学んだり、登山計画を入念にチェックしたりすることで回避できる面もあります。さらに、GPS機能のあるスマホと予備のバッテリーのほか、紙の地図を持つことも安全登山に結び付きます。包帯や絆創膏などをもっていけば、ケガ等の対処もできます。何事も始めが肝心です。特に初心者の方は、山を知るベテランや上級者のアドバイスを求め、一緒に登るようにしてほしいですね。 京屋：過信せず、冷静に自分の体力・技量を客観視した「マイペース登山」を心掛けてください。そして、段階的に山の難易度を上げていくことが大切だと思います。さらに経験から学ぶこと。山に登ってヒヤリとした場合があったら、なぜそのようなことが起きどうすればよかったのか、下山後に振り返りという「復習」をして、安全登山の引き出しを増やしていってください。山では「安全第一」の行動をとることが大切です。 ―山の難易度を知り、自分に合った山を選ぶにはどうしたらいいでしょうか？ 傘木：私たちは、登山ルート別に難易度を評価した「信州山のグレーディング」を作成しました。長野県内にある一般的な123の登山ルートを体力と登山道の技術的な難易度で評価しています。自分の体力や技量に合った山を選ぶ参考になると思います。webサイトからも見ることができます。 京屋：登りたい山や目標とする山は、誰もが持っていると思います。目標の山を設定したら、自分の今のレベルを知り、しっかりと段階を踏んでください。例えば初心者の人が、憧れの槍ヶ岳に登りたいと思ったら、里山登山から始めて、1000m級、2000m級…とステップを踏んでいくことが、実は槍ヶ岳の頂上に安全に立つ、近道だと思います。 ―最後にメッセージをお願いします。 傘木：心身の健康やリフレッシュに、登山はとてもいい生涯スポーツだと思います。長く安全に続けるためにも、しっかりとした知識と技術を身に付けることが大切です。もし天候が悪かったら登山の中止や引き返す勇気を持ってください。山は逃げませんので、次のチャンスを作ってください。私も途中で引き返したことが何度もあります。そんな時は、麓の温泉に浸かって、ゆっくり過ごします。山以外にも楽しめる場所が長野県にはたくさんあります。 京屋：それぞれのレベルで、「達成感」を身近に感じられるのが登山の魅力の一つなのだと思います。私たちは、安全に登山を楽しんでももらうための講習会を開催していますし、SNS等で山に関する情報を発信していますのでぜひご覧ください。 山に関する情報はコチラ 傘木：長野県は南北に長く、里山から3000m級まで高低差がある山々が魅力です。四季折々、地域ごとに特色ある素晴らしい自然が、季節の移ろいとともに長く楽しめます。安全に山、登山を楽しんでください。 ○傘木靖所長（左） 長野県出身。学校登山（長野県あるある）で登ったのをきっかけに燕岳には20回以上登っていて、一番のお気に入りの山 ○京屋仁さん（右） 地元の大町高校（現・大町岳陽高校）山岳部で鍛えられ、卒業後は本場のアルプスで山登りがしたくて、単身フランスへ渡った山男。最近はハードな登山はお休みして、家族でまったり里山を楽しんでいる