1900もあった長野県の山城 日本の〝城〟というと、松本城のように平地に築かれ、何層もある天守閣をイメージする人が多いだろう。それらは「平城」とよばれ、合戦のためというよりも城下町を治める機能の方が重視され、合戦用には山を要塞化した「山城」が主だった。高所でかつ険しい山の地形は防御に有利だからだ。山に防御陣地を築くのは、場所と時代を問わず普遍的に行われていたが、日本の山城の初めての登場は7～8世紀初頭といわれている。山の上は住むには不便なため、合戦がないときは、城主は山の麓に建てた館で暮らし、敵が攻めてきたら山上の城に立て籠もるといった使い方をしていた。 そうした山城は、信州に1900ほどあったといわれているが、これほど多くの山城が造られたのは、越後の上杉謙信、甲斐の武田信玄という、戦国時代を代表する二大武将がしのぎを削った地だったからだ。とくに東信地域は戦名人の信玄が二度も敗戦を喫した激戦の地。堅牢な山城が武田軍の行く手を阻んだ。 「城山」と名のつくところは大概が山城だった場所。普段見慣れた山を改めて見直し、その歴史をたどってみるのも良いかもしれない。 城山史跡公園 荒砥城跡 城主は村上氏族でありながら武田軍についた屋代政国などだったが、上杉軍により占領され、再び武田軍に放火・占領される。武田氏滅亡後は屋代氏ほか7氏によって管理。後に屋代秀正が上杉景勝に攻められ廃城となり、現在は連郭式の山城を復元した公園として整備されている。 長野県を代表する山城たち 山を要塞化した「山城」。戦国時代、川中島の戦いや上田合戦など多くの激戦が繰り広げられた信州には、1900もの山城が存在していたといわれる。合戦に使われていた山の歴史を知り、戦国時代に想いを馳せてみよう。 妻女山 第4回の川中島の合戦の折、上杉軍が陣を張って信玄の動きをうかがい、夜襲をかけるであろうことを見破った場所。現在は善光寺平や北アルプスを見晴らせる展望台もある。戊辰戦争の戦死者を祀る招魂社も立つ。 〈主な戦い〉川中島合戦　上杉軍VS武田軍 野尻城 野尻湖の北岸中央、東から西側に張り出した稜線に築かれた山城。野尻湖に浮かぶ琵琶島城と対をなし、合わせて野尻城と称されている。武田軍と上杉軍による川中島の戦いでは信越国境「境目の城」として重要視されていた。 〈主な戦い〉上杉軍VS武田軍 屋代城跡 しなの鉄道屋代駅東の一重山の尾根につくられた屋代氏代々が本拠とした山城。主郭、二の郭、三の郭、堀切、削平地の腰曲輪など、城の名残が今も見られる。山中にはいくつかの社も立つ。 〈主な戦い〉上杉軍VS武田軍 葛尾城 村上義清が本拠とした城。砥石城を失い信玄の侵攻によって自ら葛尾城を落とした義清は、その窮地に上杉謙信を頼った。その後、信玄が於曾源八郎をおいたが義清に攻め入られる。標高差386ｍで、周辺の城に比してかなり大きく、高い城であった。 〈主な戦い〉布施・八幡の戦い　上杉軍VS武田軍 砥石城 上田原の戦いの大敗の翌々年、再び信玄が大敗を喫した「砥石くずれ」で名高い村上義清の山城。その後、真田幸隆の陰謀により落城、のちに真田昌幸の居城となる。連郭式山城で4つの山城からなる。 〈主な戦い〉砥石崩れ　村上軍VS武田軍 丸子城 上田に攻め入る徳川軍から真田軍の勝利を決定づけた丸子表の戦いに登場する山城。内村川と依田川の合流地点に位置し、両川が堀の役目を果たしていた。現在「二の郭」跡には櫓が復元されているほか、「主郭」には堀切などの遺構がみられる。 〈主な戦い〉丸子表の戦い　真田軍VS徳川軍 光城 中央自動車道豊科ICの北東2kmの所にあり、比高300ｍほどの光城山の山頂が城址である。室町中期に海野六郎によって築かれたのに始まるという。かつて狼煙を使い連絡を取り合っていたと思われ、本丸には火の守り神を祀る古峰神社がある。 〈主な戦い〉戦いに使われなかった 林城 松本平の東縁、薄川左岸の丘陵上に築かれた林城。城主は信濃守護職小笠原氏とされる。林大城と林小城からなり、周囲には大城を防御するための城塞群が設けられ、防御ラインを構築していたが、天文19（1550）年に武田信玄に攻められ落城。 〈主な戦い〉小笠原軍VS武田軍 上原城跡 諏訪盆地を一望する金比羅山に築城された諏訪氏の山城で、室町時代後期（1466年頃）に城下町とともに整備されたといわれている。信玄の侵攻により落城、信玄の信濃攻略の拠点のひとつとなった。 〈主な戦い〉諏訪軍VS武田軍