豪雪地帯として知られる飯山市。除雪などの苦労の一方で、雪は豊かな農産物を育み、観光資源として生かされている。最近は、北信州らしい日本のふるさとをイメージさせる里山を、ゆっくりサイクリングで回るなど、グリーンシーズンの楽しみ方にも注目が集まる飯山市とはどんなまちか江沢岸生市長にお話を伺った。 シャンツェの街として、世界デビューを ―ジャンプ台（市営飯山シャンツェ）に上ったのは初めてです。 江沢市長（以下・江沢）：2028年の「信州やまなみ国民スポーツ大会（冬季）」でのジャンプ会場になるため、最新施設のジャンプ台に向けての整備計画を立てています。今でも、日本のトップアスリートが練習に訪れており、将来的にはW杯などの国際大会招致を目指しています。そのため、寄付を募っての整備も進めています。人口約１万8000人、日本スキー発祥の地の飯山市が、このジャンプ台で「世界デビュー」を果たせれば、長期的にはかなりのメリットになると期待しています（※許可をもらい、安全に配慮して撮影しています）。

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  ジャンプ台（市営飯山シャンツェ）
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―撮影の場所にここを選んだのはなぜですか。 江沢：ジャンプ台のほかに、このまちの景色をぜひ紹介したかったのです。赤や水色、こげ茶、オレンジ…など、カラフルな家の屋根、大小の田んぼが広がり、千曲川が流れ、地域のシンボル「高社山」をはじめとした山並みが一望できます。千曲川にかかる「中央橋」は、川上村の源流から新潟市の河口のほぼ中央に位置することから名付けられました。また、家の屋根の色や向き、大きさがバラバラですが、私はこれに「自由さ」を感じて、気に入っています。最近多い、景観に統一性を持たせる街づくりとは異なり、「不揃いの調和」と思っています。パレットに自由に絵の具をのせてもきれいに見えますよね。それに似ています。 ―この景色は、ほかの場所でも見られますか。 江沢：かつて物見の地だった「鷹落山」ですね。旧信濃平スキー場の跡地を利用したパラグライダーの離陸場がある場所から、この眺望が見られます。市外からの訪問客をここに案内すると、必ず喜んでくれます。フランスに滞在経験のある人は、「フランスの田舎町の景色にそっくり」と、驚かれます。車でアクセスできますので、ぜひ訪れてほしいです。「鍋倉山」からも眺められますが、登山になるので、ハードルは少し上がります。また、見下ろす感じではありませんが、「菜の花公園」からも、市内の景色を楽しめます。余談になりますが、「菜のは～なばたけ～に♪」の唱歌「おぼろ月夜」の作詞で知られる国文学者・高野辰之は、生まれはお隣りの中野市ですが、飯山市の小学校で学びました。

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  鷹落山
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  菜の花公園

―市民気質に「自由さ」を感じますか。 江沢：「自由さ」の代わりに「協働」「協力」を強く感じます。雪深い地域なので、雪かきや、その雪の置き場などで、協力し合いながら生活していかなくてはなりません。また、水田地帯のため、水が命。共有財産としての水を巡っても協力・協調する必要があります。雪については、自力では雪かきが困難な人などを対象に、市民や事業者、行政が協力して除雪をする「雪かき支援隊」を始めました。特に高齢化が進む中、一つの課題だったので、「冬になっても雪かきの不安がなくなった」との多くの声はうれしいですね。 「雪の経済」を元気にしていきたい ―雪深い町ならではですね。 江沢：もちろん、雪の恩恵もあります。市内には斑尾高原スキー場と戸狩温泉スキー場があります。コロナ禍を経て、近年ではインバウンド人気が高まっています。スキー・スノーボード、スノーシューツアーの実施などで、その勢いはコロナ禍前より増している感じです。ほかにも「レストランかまくら村」をご存じの方も増えているのではないでしょうか。大きなバルーンを使った独自の造り方で、20基ほどのかまくらを形成し、その中で、地元の食材を使った「のろし鍋」を味わえます。大小の雪像が並ぶ「いいやま雪まつり」はお馴染みのイベントです。

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  レストランかまくら村
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  飯山市雪まつり

―雪とともに生活をしているのですね。 江沢：私は「雪の経済」と呼んでいます。観光・レジャーのほかにも、70台ある除雪車の運行は、冬の建設業界にとっては大切な仕事です。それに伴い、ガソリンスタンドの利用（需要）も増えます。農業にも、雪をうまく活用していきたい。雪室（天然の冷蔵庫）で保存すると野菜は甘みを増し、特産のそばも熟成します。「雪下ニンジン（スノーキャロット）」は、秋に収穫せずに越冬させます。雪の下で熟成され、春に収穫した時は、臭みがなく、濃い甘みが特徴です。東京の老舗高級料亭で料理長を務めた人もおいしさにびっくりしたほどです。保存もきかないため、販売期間や出荷量が限られ、市場には出回らない「幻のニンジン」。ぜひ、飯山市に来てください。

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  冬の生活にはかかせない除雪車　写真提供：飯山市）
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  雪下で熟成させることにより甘みが増す雪下ニンジン
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  雪下ニンジンは「スノーキャロット」とも呼ばれ親しまれている
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  農産物が豊富に揃う「道の駅 花の駅 千曲川」写真提供：飯山市

―「地盤産業」は何でしょうか。 江沢：工場も多く、生産額ベースでは製造業が地盤（基幹）産業といえます。地域性でみると、雪や里山を生かした観光、コメを中心とした農業も盛んです。意外と知られていないのが、花き栽培が盛んなことです。市内では露地、ハウス栽培あわせて約400種類の花が栽培されています。特にシャクヤクは品質・量ともに全国トップレベル。為替レートを見ながら、各国から日本に輸出される花の状況を確認するなど、世界を舞台に取引している花き農家さんが多く、「いい花を、適正価格で」と努力する農家さんの努力は凄いです。

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  希望湖のスノーシュー体験もおすすめ
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  豪雪地飯山の豊富な雪解け水で育ったお米。
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  全国トップレベルのシャクヤク

里山の生活が移住、観光の活性化につながる ―ある雑誌で、移住人気が高かったようです。 江沢：うれしいです。新幹線の停車駅があることや高速道路のインターチェンジが近い、北信州らしい里山風景が残るなどが理由に挙げられるかもしれません。ただ、人口減少率は約2.6％と、社会減が続いています。原因の一つは所得が低いことにあると思います。対策として、小さくても新しい産業の創出や、それにチャレンジできる環境づくりを整えていきたい。例えば、コメの加工品開発。成長著しい東南アジアや中国で食べられているフォーやビーフン、西洋料理や鍋にあうお米・玄米などの開発はどうでしょうか。また、学校給食に、地元産の減農薬米や玄米などを提供していけないか考えています。「安全」「おいしい」「栄養豊富」の3拍子揃った地元産米を使った給食は「食育」にぴったりだと思います。こうした取り組みに協力・チャレンジするコメ農家さんを支援することは、農家の所得向上につながると考えています。おいしいお米を栽培する農家さんが多い、米どころなので、可能性は高いと思います。

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  移住地としても人気が高い飯山市
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  地元産のおいしいお米を使った給食　写真提供：飯山市

―海外資本による観光開発が話題ですが。 江沢：インバウンドを中心に、観光需要が盛り上がっているので、この波はつかみたい。先方の投資ファンドは、10年間で約2,000億円の投資を予定しているようですので、大きな期待を寄せています。ただ、どのように開発するのかを見極める必要はあります。中身次第で、必要な道路や交通システムなどのインフラ整備に協力していきたい。あるCEOには、「ぜひ、飯山市はもとより、近隣の市町村にも滞在していただき、地域の自然や文化、生活を感じてほしい」と、お願いしました。