日本百名山の蓼科山麓の町。南北に長く、南部は女神湖や白樺湖、蓼科牧場などの散策・トレッキング、スポーツなどが楽しめる「高原エリア」、北部は稲作や野菜・果樹栽培など、農業が盛んな「里エリア」と呼ばれる。自然を生かし、以前から推進してきたテレワーク等の新しい働き方が、コロナ禍を経て注目を集めている。立科町の魅力とは何か立科町の両角正芳町長にお話を伺った。 山の湧水による水路整備から町の歴史が始まった ―町長が感じる町の魅力は何でしょうか。 両角町長（以下・両角）：江戸時代、稲作で塩沢地域を発展させたいと考えた六川長三郎勝家が、蓼科山で湧水を探し当てて、里までの約５５キロの水路(塩沢堰)を引いたことから、この町の歴史が始まったといっていいと思います。このきれいな湧水から、おいしい農畜産物が生まれ、今も町の水は100%蓼科山の湧水、蛇口をひねればミネラルウォーターが飲めます。

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  標高2531ｍ。「諏訪富士」とも呼ばれる蓼科山
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  蓼科山と女神湖
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  塩沢堰

―きれいな水をたたえた湖も有名ですね。 両角：「高原エリア」にある白樺湖と女神湖周辺は、豊かな自然環境がある観光地として知られています。2023年には、白樺湖畔で観光・リゾート業を展開する池の平ホテル&リゾーツと茅野市とともに「レイクリゾート構想」を打ち出しました。女神湖と白樺湖、蓼科湖の3つの湖を起点に、このエリアを訪れた人が一定期間観光したり、滞在したりできるような「バカンス型」のリゾート地にしていくことが狙いです。

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  女神湖
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  白樺湖
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  蓼科湖

―具体的に進めていることはありますか。 両角：かつての観光ブームが去り、廃業・撤退したホテルや保養所などが目立つようになりました。まずは、観光庁の補助事業として、こうした建物を撤去して、跡地利用を進めていくことを目指しています。地域の活性化のあるべき姿を多角的に捉える中で、観光や滞在での訪問客をどう迎えていくかを探っています。また、別荘地として開発され、その後、使われなくなった土地や建物もあります。これは町の「里エリア」の住民も含めた「立科町観光振興推進会議」を設立して、跡地の有効活用に弾みがつくようなアイデアを、今後練っていきたいと考えています。 ―住民、事業者、行政が手を組んだところですね。 両角：グリーンシーズンだけでなく、スノーリゾート地としての魅力も発信していきたい。立科町には「しらかば２in 1スキー場」や「白樺高原国際スキー場」、「池の平スノーパーク」の３つ、近隣には長和町、茅野市にもスキー場があります。この3市町と関連する事業者が連携を図って、主にインバウンド誘客にも乗り出しました。オールシーズン楽しめる一大リゾートを目指します。

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  しらかば２in1スキー場
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  白樺高原国際スキー場
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  池の平スノーパーク

観光と仕事、住まいが一体となったワーケーション ―移住・定住者の増加は見込まれますか。 両角：軽井沢エリアほどの高まりはまだありませんが、子育て世代への経済的な負担軽減策を相次いで打ち出しています。不妊治療や不育治療費の助成、出産後には祝い金として第１子５万円、第２子３０万円、第３子以降は５０万円、３歳未満の子どもの保育料が２人目半額、３人目無料、使用済み紙おむつの 保育園での処分...など。さらに小中学生では、学校給食無償化、自校給食、英検や漢検などの検定料の一部助成、高校生の通院費等の医療費を支給するなど、妊娠前後から出産後、高校生まで、手厚く実施しており、今後の移住者増加につながることを期待します。

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  子育て支援が手厚い立科町
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  児童館での様子
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  立科町マスコットキャラクター「しいなちゃん」と
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  学校給食の様子
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  学校給食の一例

―住まいに関してはいかがですか。 両角：移住定住者の新築住宅に５０万円から最大１５０万円の補助金制度を設けています。また、町で新婚生活を始める世帯には「生活応援資金」として最大３０万円支給します。ほかに、町営住宅（移住定住促進住宅）の建設を急ピッチで進めたり、空き家相談・空き家改修にも取り組んでいます。また、定年退職から高齢者世代向けには、風光明媚なエリアに住宅団地を造成しました。ちなみに、町営住宅の建築資材には、町有林の自然木材も使っています。人や自然に優しく、森林の再整備にもつながります。 ―テレワークに熱心に取り組んでいますね。 両角：2015年、子育て世代や定年退職した人、障害者...など、幅広い年齢や多様なスキルを持った人たちがICTを使って、誰もが、町のどこにいても仕事ができるようにテレワーク事業に乗り出しました。交通の利便性があまりよくない点を逆手に取り、働く場を整備。現在、７０人ほどのワーカーが、自宅や「立科町テレワークセンター」などで、時間や場所、仕事内容など自分に合ったスタイルで働いています。さらに2025年には「立科町振興公社」を設立して、テレワークの運営強化を始めます。町外から大きな仕事を取ってくるなどして、町住民ワーカーと協力して成果につなげ、将来的には、自ら起業できるレベルまで引き上げていきたい。今後の地方創生の新たな「ビジネスモデル」の一つになるのではと考えています。

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  立科町テレワークセンター
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  約70名の 「住民ワーカー」が在籍

―自然環境の良さも追い風になりそうですね。 両角：特にコロナ禍を経て、自然の中で働くことに注目が集まっています。町としては、様々な働き方を認める企業の動きにあわせて、「Lake Office女神湖」を整備しました。白樺高原エリアの宿泊施設などと協力して、テレワークや会社の会議室などとは違った、雄大な自然環境の中で、「企業研修」や「オフサイトミーティング」などの仕事をしていただきたい。新しい形の地方滞在を通して、町の魅力を知ってもらい、まずは関係人口を増やしていきたいと考えています。 水と気候条件が育てる農畜産物の高い潜在力 ―「里エリア」についてはいかがですか。 両角：農業と観光をつなげるような活性化を図っていきたいと考えています。蓼科山の湧水が豊かな農畜産物を育んでおり、おいしいものがたくさんあります。肉質がきめ細やかで柔らかくて甘みがある「信州蓼科牛」は、伊勢神宮にも奉納された信州を代表するブランド牛の一つです。「立科米」も収穫量は限られますが、「特A米」として人気です。個人的には「立科産リンゴ」と「立科産ソバ」は、産地・長野県内でも1、2を争うおいしさだと思っています。このソバに加えて、「落花生」の栽培も増えています。適地作物を探していく中で行き着き、特産化に向けて力を入れています。どの農産物も長野県を代表するブランドになる可能性を秘めています。

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  信州蓼科牛
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  立科米
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  立科産リンゴ
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  立科産ソバ
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  落花生

―農産物はどこで買えますか。 両角：「道の駅女神の里たてしな（蓼科農ん喜村）」や「ふれあい市菜ないろ畑」で販売しています。また、町内には地元の農畜産物を提供している宿泊施設や飲食店「たてしなの恵み利用店」もあります。今後は、「高原エリア」の観光施設などに地元食材を使ってもらえるように力を入れていきたい。

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  道の駅女神の里たてしな（蓼科農ん喜村）
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  ふれあい市菜ないろ畑
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―課題と将来像を聞かせてください。 両角：課題をもう一点挙げるとすると、高齢化対策。その一環として「介護予防ドクター事業」を開始しました。介護予防体操のほか、民間企業の協力を得て「正しい歩行姿勢」を数値で分析して、身に付けてもらうのが狙いです。特に、子どもの頃から正しい歩行姿勢を習慣化することで、高齢者になっても健康維持が期待できます。いろいろな介護予防教室を開催しており、寝たきりゼロの町を目指したいと考えています。