日本遺産になった黒曜石の産地として知られる。この地で採れた黒曜石は良質で、青森県や北海道にまで渡ったとされる。黒曜石の岩盤でろ過された「黒曜の水」の恵みは、ダッタンそばやコメ、野菜などを育み、町の人たちの元気の素になっている。豊かな自然に囲まれた環境と手厚い子育て支援は、移住者にも魅力的だ。長和町とはどんなまちなのか羽田健一郎町長に掘り下げてお話を伺った。 旧石器、縄文時代は大都会⁉　古代ロマンの町 ―長和町はどのような町でしょうか。 羽田町長（以下・羽田）：旧長門町と旧和田村が合併して、2025年度に町制20周年を迎えました。現在（2025年）の人口は、約5,500人。基幹産業は農業で、コメを中心に、エノキダケ、ブロッコリー、アスパラ、ミニトマトなどの野菜を栽培しています。黒曜石の産地、中山道の宿場町として歴史が感じられるほか、霧ヶ峰や美ヶ原などの自然が豊かな町です。近年では、この「歴史と自然の町」として観光に注力し、町の魅力を発信しています。

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  農地が広がる自然豊かなまち
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  黒曜石の産地としても有名
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  中山道歴史の道資料館「かわちや」
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  霧ヶ峰
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  美ヶ原

―日本遺産にもなった黒曜石の産地ですね。 羽田：歴史をさかのぼると、約3万5,000年前の旧石器時代から約5,000年前の縄文時代、黒曜石がここで採掘されていました。それを狩りに使う矢じり、調理用の包丁などに加工していました。当時の生活には必要不可欠なものだったため、必然的にこの地域に人が集まり、「都会」になっていたと思われます。当地の黒曜石は青森県の三内丸山遺跡や北海道にも渡っていた形跡があります。

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  世界的にも希少な縄文時代の黒耀石鉱山跡。国史跡に指定
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―古代ロマンですね。 羽田：想像ですが、当地の黒曜石の質がかなり良かったことや、みんなで仲良く分配するという気持ちがあり、遠方まで渡ったのではないでしょうか。そう考えて現代と比較すると確かに、平和な社会に「古代ロマン」を感じますね。こうした歴史的なストーリーが日本遺産に認定されたのだと思います。黒曜石スポットとしては、縄文時代の黒曜石を採掘する様子をプロジェクションマッピングで紹介している「星くそ館」や、矢じりやネックレスなどをつくれる体験型の「黒曜石体験ミュージアム」があり、人気です。

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  星くそ館（黒耀石鉱山展示室）
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  黒耀石体験ミュージアム

―ほかにはどのような観光がありますか。 羽田：「歴史」の面では、それぞれ中山道の27番目・28番目の宿場町としての面影が残る「長久保宿」と「和田宿」を歩いて回る人が増えています。大規模な繁華街としてにぎわった長久保宿、峠道として中山道屈指の難所・和田宿は旅人がゆっくり休んだ落ち着いた宿場。対照的な2つの宿場の違いを感じるのも面白いのでは。和田宿では、お盆に夏祭りが開かれます。

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  長久保宿
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  和田宿・和田宿本陣

―「自然」に関する観光はいかがでしょうか。 羽田：美ヶ原と霧ヶ峰が代表的な自然観光ですね。四季ごとの美しい自然の風景は有名ですが、整備されたトレイル（山道）は、ハイキングやトレッキングにぴったり。コースも設定され、新緑やさわやかな風、紅葉だけでなく、野生動物にも出合えることもあります。「白樺高原 長門牧場」は、標高約1,400mにあり、約210ha、東京ドーム約45個分の広さを誇る酪農牧場です。乗馬のほか、バター作り、アイスクリーム作りが体験できます。ここでは、ソフトクリームを味わってほしい。絶品です。また最近のイチオシは、飲料メーカーのカルピスとのコラボ商品「バターアイスクリーム」。牛乳とバターのしっとりとした濃厚さがとても合っています。以前は、長野県のソウルフードの「牛乳パン」を山崎製パンと作ったこともあり、おいしさには定評のある牛乳です。

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  中信高原、霧ヶ峰・美ヶ原高原を歩くトレイルコース
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  美ヶ原で夏季に開催するトレイルラン大会の様子
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  東京ドーム45個分の広さを誇る「長門牧場」
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  長門牧場で大人気のソフトクリーム
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  カルピスバターとコラボした長門牧場のアイスクリーム

ふるさと納税に注力し、町の存在感を高めたい ―アイスクリームはおいしいですね。 羽田：おいしいものは、たくさんあります。特産品の「ダッタンそば」。「苦そば」の別名があるように本来は苦みがあるのですが、町内の遊休農地に種をまくと不思議と苦みがない。また、ポリフェノールの一種のルチンが通常のソバの120倍と、健康食としても優れています。ほかの地域では見られない、日本唯一のソバです。恐らく、土や黒曜石の岩盤を通ってきた湧水「黒曜の水」の恵みではないでしょうか。「ダッタンそば茶」の商品化にも成功し、香ばしい風味とヘルシーさが人気です。私は、毎日飲んでいます。お酒で割ったり、二日酔いの朝にもいいですよ。

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  長和町名産の信濃霧山ダッタンそば
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  硬度17度という超軟水の「黒曜の水」
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  ダッタンそば茶

―名水が育む食による町おこしが期待されますね。 羽田：水が豊かでコメのほか、野菜もおいしいです。町内にある「道の駅マルメロの駅ながと」と「道の駅和田宿ステーション」では、町の新鮮な農産物や特産品が買えます。町へのアクセスは、車利用が多いため、道路整備や２つの道の駅をさらに充実させることは一つに活性化につながると思います。町の観光スポットと特産品は豊富にあり、可能性を感じます。埋もれていた魅力を掘り起こして、広く発信していきたい。

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  道の駅マルメロの駅ながと
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  道の駅和田宿ステーション

―潜在力を開花させる方策はありますか。 羽田：ふるさと納税は一つの突破口なると思います。ブランシュたかやまスキーリゾートリフト券が返礼品の一番人気ですが、ほかにもプレミアム牛肉（鷹山ファミリー牧場）や町産コシヒカリなどをラインナップし、好評です。今後、返礼品を強化する中で、先に述べた長門牧場のバターアイスクリームや全国的に評価が高い竹内農産の野沢菜漬けなどは高い可能性を感じます。また、貸別荘も有力な返礼品候補と考えています。

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  ブランシュたかやまスキーリゾート
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  鷹山ファミリー牧場のプレミアム牛肉
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  長和町産コシヒカリ
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  竹内農産の野沢菜漬け
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  貸別荘

―別荘は面白そうですね。 羽田：あまり知られていませんが、町には約5,000区画あり、そのうち2,000区画ほどが別荘に利用されています。「山小屋」風の別荘が多いのが特徴で、価格もお手頃です。中古物件を購入後、自分流にリノベーションして、住んでいる移住者もいます。気軽に里山暮らし・田舎暮らしを楽しめるのではないでしょうか。ふるさと納税の整備で財政を安定・強化し、住民サービスの一層の充実につなげたい。 充実の子育て支援で、移住者の増加につなげる ―子育て・移住支援についてはいかがでしょうか。 羽田：「子育て日本一の町」を目指して、全国的にも早くから子育て支援に力を入れてきました。18歳以下の医療費無料化、給食費の無償化、高等学校通学費補助…など。ほかにも、子育て応援給付金として第1子に3万円、第2子に5万円、第3子に10万円、第4子以降には20万円、さらに小学校入学時に３万円、中学校入学時に5万円を給付するなどしています。町に住む子育て世代のサポートとともに、移住者の増加にもつながることを期待します。 ―住まいに関する支援については。 羽田：昼間は上田市や佐久市に働きに出て、夜や休日は家で過ごす「ベッドタウン」の側面もあるため、住宅支援にも力を入れています。「子育て支援マンション」（町営住宅）は、3LDKで家賃が3万5,000円（2025年1月現在）に設定し、60戸がすぐに埋まりました。また、低価格帯の住宅団地の造成も進めています。空き家バンクの整備も必要と考え、相談窓口になる「空き家バンク」と、空き家の利活用を行う「ナワメ社」（地域おこし協力隊出身者が運営）との連携を深めていきます。最近は、古民家をリノベーションしたカフェなどの開店も目立ちます。

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  町営住宅
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  ナワメ社によるイベント「ナワメマーケット」の様子

―町の未来像は。 羽田：長期総合計画で、地域産業振興や子育て支援の充実、安心・安全の町づくりなどで、町民が「しあわせ」を感じる町づくりを掲げています。縄文時代に黒曜石を、遠方にまで分配したように、分け隔てなく接する姿勢の「黒曜石スピリット」が町にはあり、「人と人とのつながり」を大切にしていきたいと考えています。