さまざまな温泉文化に触れてみる 長く愛されてきた長野県の温泉は、地元のひとには生活に密接した欠かせない存在であり、観光で訪れるひとには日頃の喧騒を忘れて心身ともに癒される場でもある。温泉街によってさまざまな文化があり、それに触れるだけでも温泉巡りがより楽しくなることだろう。 １.生活の中の温泉 深い地層から汲み上げる、山奥の源泉からパイプで運ぶなど、今でこそいろいろな形の温泉が存在するが、もともとは地熱によって温められた地下水が自然に湧き出たものだった。そこに住む人にとっては温泉が当たり前の存在で、お風呂としてはもちろん、熱湯で野菜を茹でたり工芸品作りに利用したり、温泉に寄り添った生活を営んできた。 90度以上の熱湯が湧き、湯煙を上げる麻釜は野沢温泉のシンボル。古くは、この場所で麻を茹でて繊維をとっていたことからこの名がついた。今でも村の人が野菜や卵を茹でるなど、生活に欠かせない場となっている。 2.湯治して身体を整える 温泉が身体に良いということは、医療や科学が十分に発達していなかった時代でも、人々は体験的にその効能を知っていた。温泉に入浴したり飲泉すると病気が治るといったことが伝わると、温泉地には湯治を目当てに人々が訪れるようになる。とくに街道が整備された江戸時代以降は、多くの湯治客でにぎわうようになった。 信心深い猟師に湯が湧き出ている場所を教えたという文殊菩薩を祀っている。天井には龍の絵があり、県宝に指定されている。毎年4月下旬の日曜日には祭りがあり、参拝者に知恵の団子がふるまわれる。 3.射的などで温泉街を遊び尽くす 湯治文化が発達したことにより、温泉地は旅行先として定着。癒しだけでなく、楽しみを求めて人々が訪れるようになる。旅行者をもてなすため、温泉街には娯楽施設や遊技場、飲み屋が立ち並び、お座敷を盛り上げる芸妓も増えて歓楽街として発展していく。そうした温泉街を訪れると、昔懐かしいレトロな雰囲気が味わえる。 戸口からすぐが射的場になっており、昔ながらのレトロな表情が残る。浴衣姿のほろ酔い客が遊ぶ姿は温泉街ならでは。射的指南をしてもらいながら、昭和にタイムスリップしたような街の夜を楽しみたい。 4.朝市などの観光を楽しむ それまで名所や景勝地を訪れるときに立ち寄る場所だった温泉地。時代が進むにつれ、温泉の魅力が広まっていくと、温泉地そのものが観光地となる。古くからの温泉地がその歴史を生かす一方、新しい温泉地は朝市などのイベントを開いて地域の人々との交流を楽しめるようにするなど、観光客を引き寄せるため、独自の試みを行っている。 昼神温泉は歓楽街のない静かな山里の温泉地。年中無休で開催される朝市では、地元の農家が栽培した新鮮な野菜や果物のほか、山菜やキノコなどの旬のもの、手作り加工品が並び、地元の人たちとの会話も楽しい。 5.ロマンあふれる温泉を見つける 温泉が観光地として広まっていく一方、温泉の原点に立ち返り本物の湯を求めようと、山奥にひっそりと佇む一軒宿や、徒歩で何時間もかけてたどり着く秘湯へと足を運ぶ温泉ファンも増えてくる。だれも知らない自分だけの温泉を見つける旅は、ロマンあふれる冒険。豊かな自然に囲まれた湯に浸かれば、心からくつろげる。 秋山郷の最奥に湧く切明温泉。河原の一角から湧く源泉のほか、河床のそこかしこからもブクブクと温泉が湧き出す。源泉は50度以上とかなりの熱さだが、中津川の流れと混じって適温となる。