長野県の北部、ニッポンの原風景を想起させる木島平村。地形と気候、清らかな水、そして地元農家の熱意が育てる農産物はどれも高評価。特に「木島平産コシヒカリ」は、知る人ぞ知る逸品だ。新しくなった2つスキー場は観光の目玉として期待が高まる木島平村について日䑓正博村長にお話を伺った。 四季を感じる暮らし。「隠れた大人気」のコメは世界トップ級 ―木島平村の魅力について教えてください。 日䑓村長（以下・日䑓）：春夏秋冬、四季の変化を感じられる自然豊かな生活があります。その自然が育てる農産物は特別です。雪が深いため果樹栽培の適地ではありませんが、お米や野菜については、味・品質が素晴らしい。気候や地形の恩恵だと思います。また、村がコンパクトなので、地域によって生活文化や習慣の違いもあまりなく、村の人たちのまとまりはいいのではないでしょうか。地形は約8割が山林、残り2割を占める農地や住宅地は、村の西側に集中しています。東にある山々が屏風のようにそびえ、そこから西に向かってなだらかに傾斜して開けているため、遠方からでも村が眺められます。村内からの眺望もいいですが、長野市など、外から見る村もいいですよ。

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  高社山の麓に広がる木島平村は県内でも有数の米処
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  カヤの平高原はブナの原生林や高山植物の宝庫
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  年2回しか放流しない幻の滝「樽滝」

―木島平村はコメどころとして評判が高いようですね。 日䑓：うれしいことに、高い評価をいただいています。「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で木島平米が10年連続金賞を受賞しています。また、村にある「木島平米ブランド研究会」が全国的にも高い評価を得ています。コメ農家さんたちの「いいコメを作ろう！」という、本気度が凄いです。生産・流通量が多くないので、全国広く一般に知られているというわけではないようですが、「今日はおいしいご飯を食べたい」と思ったときに買って、食べていただければいいと思っていますし、その期待に応えられる味です。もう一つ宣伝させていただくと、「村長の太鼓判」は農業振興公社などが審査・厳選し、文字通り太鼓判を押したお米です。2023年は180俵（1万800㎏）、2024年は320俵（1万9200㎏）ほどしか出ていない、幻以上に貴重です。村内では、弥生時代の「根塚遺跡」が発掘されました。当時からコメ作りが盛んだったのではないでしょうか。

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  天然水と有機農法で作られたお米は国際大会で金賞受賞する実力
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―野菜の栽培も盛んですね。 日䑓：アスパラガスやネギ、トマト、最近では西洋野菜のズッキーニの栽培も盛んです。雪に覆われる冬の間に地中の根に養分を蓄えて、春の雪解け水を受けて成長して、夏においしくなります。昼夜の寒暖差と西に傾斜した地形で太陽の光をたっぷり浴びられる気候、肥沃な土壌、高社山やカヤの平からの清らかな水、そしてコメ同様、農家さんの熱い気持ちが、おいしい野菜を育んでいます。木島平産のズッキーニはテレビ番組にも紹介されました。

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  人気の高い木島平産のズッキーニ
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  農産物や加工品が豊富に揃う「道の駅 FARMUS木島平」
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  鮮度の高いおいしい野菜が並ぶ

―酒米の「金紋錦」を守り続けてきたそうですね。 日䑓：かつては長野県の推奨品種でしたが、栽培や精米が難しく、生産が敬遠される中、栽培するのは全国で木島平村、扱う酒蔵も福光屋（石川県）のみという時代が長く続きました。その後、金紋錦を原料にした日本酒が金賞を取ったり、栽培技術の向上などで、再評価が進み、今では、金紋錦を扱うのは15蔵ほどに増えたのではないでしょうか。日本酒ではほかに、村内の内山地区の農家3人で栽培している品種・ひとごこちを「平成の名水百選」の龍興寺清水で仕込む「内山の雫」は、大変希少で人気のある日本酒です。

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  金紋錦
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  「平成の名水百選」の龍興寺清水
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  希少な日本酒「内山の雫」

―就農するために移住してくる人も多いのですか。 日䑓：代々続く地元のコメ農家が元気なので、コメ作りというよりは、アスパラガスやズッキーニなどの野菜を栽培する新規就農の人が多いです。また、村に「仕事を持ってくる」若い、元気な移住者もいます。 ―仕事を持ってくるというと…。 日䑓：古民家を活用した宿泊施設を開いたり、最近では、たこ焼きの移動販売を始めた大阪からの移住者がいます。空き家を拠点に、各地で開催されるイベントにキッチンカーで出店しているようです。このキッチンカーをつくる際に村として支援金を出しています。ほかにも、オリジナルスノーボードを製作する人もいます。村の中で紹介された仕事に就くというより、自ら仕事を持ってきたり、新たに創出するなど、「自分はこれがやりたい！」と、起業する移住者が増えている印象です。 2つのスキー場とカヤの平、馬曲温泉。観光の起爆剤に ―移住支援にはどのようなものがありますか。 日䑓：空き家バンクのほか、空き家活用や家賃補助などがあります。昨年は約20軒の空き家が埋まったようです。二拠点生活での利用も見られます。冬には雪が多く降る地域なので移住前に一度生活体験できるように2棟の「田舎暮らし体験住宅」を用意しています。雪や寒さの状態、地域の暮らしなどにも触れてみることをおすすめします。

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  庚棟(かのえとう)
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  大町棟(おおまちとう)

―観光地としての魅力は何でしょうか。 日䑓：観光の一番の柱は2つあるスキー場になるでしょう。一つは「スノーリゾート　ロマンスの神様」。初心者、ファミリーが楽しめます。もう一つが「Theきじまスノーパーク」。こちらはアルペン、スノーボードクロスやバックカントリーエリアなどがあり、上級者・競技者向け。FIS（国際スキー・スノーボード連盟）公認のコースでもあり、今後は国際大会の開催も期待されます。2つのスキー場は隣接しているので、幅広い人たちが楽しめる冬のアクティビティだと思います。リニューアルした「馬曲温泉」とセットで楽しんでほしいですね。グリーンシーズンではやはり「カヤの平」。樹齢200年～300年のブナの原生林が広がり、紅葉は本当に見事です。車でのアクセスが良く、遊歩道も歩きやすく、トレッキングにおすすめです。考古学ファンにはお馴染みの「根塚遺跡」もイチオシです。弥生時代の貴重な出土品などから、海外との交流もうかがえます。

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  スノーリゾートロマンスの神様
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  Theきじまスノーパーク
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  馬曲温泉
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  カヤの平高原
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  根塚遺跡

―観光面では、将来的な展望をどう描いていますか。 日䑓：サイクリングやトレッキングなどのアクティビティ人気の高まりを受けて、飯山市や山ノ内町、野沢温泉村など、隣接の市町村との広域連携も進めていきたいと思っています。また、ニッポンの原風景ともいえる木島平村の生活風景は、旅慣れた外国人観光客には魅力的に映ると思います。北陸新幹線の停車駅である飯山駅へのアクセスはとてもいいので、観光だけでなく、ビジネスや移住の面でのポテンシャルは高く、アイデアを練っていきたい。

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  サイクリングの様子　画像提供：（一社）木島平村観光振興局
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  トレッキングの様子　画像提供：（一社）木島平村観光振興局

―将来的な課題には何がありますか。 日䑓：少子化対策は急ぎたい課題です。村として、出産後の子育て支援などの経済的支援はできますが、未婚化・晩婚化をどうしたらいいのかは難しい。若い人たちが安定して働いて、暮らせる環境は大切だと思います。若い人たちの仕事を含めた定住環境の整備を進めていきたい。人口減少や高齢化では、お祭りや行事、道路の管理、飲食や商店など地域を維持するための人手が足りなくなっているのが現状で、対策を急ぎたい。ただ、のどかな村らしく、住民たちはそれなりに充実した落ち着いた生活をしているのではないでしょうか。その点は、大切に守っていきたいと思います。