長野市に隣接し、上信越自動車と長野自動車道が交差する更埴ジャンクションがある高速交通網の良さなどから、近年は企業の進出が盛ん。一方で、和歌や俳句、浮世絵の舞台にもなった姨捨の棚田や開湯120年以上の戸倉上山田温泉などの観光名所も多い。街がコンパクトにまとまり、生活しやすく、移住人気も高い千曲市について小川修一市長にお話を伺った。 豊富な観光資源。整備を進めて街を元気に ―姨捨からの景色と温泉街の風情が注目のようですが。 小川市長（以下・小川）：姨捨からは、棚田と善光寺平が一望できる景色が素晴らしいです。棚田は国の名勝と重要文化的景観になったほか、「日本棚田百選」にも選ばれ、日本遺産にも認定されています。姨捨駅からの眺めや、姨捨サービスエリアからの夜景も見事です。また、観月の名所として古くから和歌や俳句、浮世絵の舞台にもなってきました。戸倉上山田温泉は、善光寺参りの精進落としの湯として親しまれてきた歴史がありますが、最近では、スナックが軒を連ねる昭和レトロな様子が、特に若い人を引きつけ、健全に夜のネオン街を楽しめると人気です。国際認証団体のGreen Destinaitionsからも「世界の持続可能な観光地Top100選」に選出されました。2014年に、重要伝統的建造物保存群保存地区になった蔵の街・稲荷山は、新たな名所として盛り上げていきたいエリアです。大壁づくりの町家や土蔵が連なり、とても風情があるので、ゆっくり街歩きを楽しめます。ほかにも、森地区は「あんずの里」として知られています。

PREV NEXT

• 
  「日本棚田百選」にも選ばれた姨捨の棚田
• 
  姨捨サービスエリアの夜景
• 
  県内屈指の温泉街のひとつでもある戸倉上山田温泉
• 
  スナック文化を盛り上げる事業「NEOネオン」
• 
  重要伝統的建造物保存群保存地区になった稲荷山
• 
  あんずの里

―高級品種のあんず「ハーコット」は大人気ですね。 小川：あんずは傷みやすいためジャムやシロップ漬けなどの加工品が中心ですが、６月下旬から７月上旬の収穫期には、現地（千曲市）で採れたての生あんずを味わえます。中でも「ハーコット」はとても甘い、皮ごと食べられる生食用の希少な品種です。さらに、そのハーコットの中でも大玉で、糖度が12度以上のものを厳選したプレミアムハーコット「杏月」はご存じですか？　銀座NAGANOや東京の果実専門店、百貨店などに並びますが、即完売するほどの人気です。 ―あんずスイーツ片手に、街歩きが楽しそうですね。 小川：温泉街は、昼でも幅広い年代の人が散策して、滞在できるような街に向けて再開発できるよう考えています。棚田は、パーキングスペースやビューポイントなどを整備して、表情豊かな景色を楽しめるようにしていきたい。稲荷山はゆっくり街歩きをして、歴史を感じていただけるように、道路を拡幅して、歩道の整備を進めていきたいと考えています。

PREV NEXT

• 
  収穫前のハーコット
• 
  プレミアムハーコット「杏月」

市民と行政、双方向型地域経営でよりよい町づくり ―地域の政策活動を評価するコンテストで賞を受賞されたそうですね。 小川：「ポリネコ！CHIKUMA」（ポリティカルニーズコーディネーター）の取り組みで、2024年度に「マニフェスト大賞」の優秀賞を受賞しました。これはスマートフォンやタブレット、パソコンを通して市民が、設問に答えながら、地域課題への理解を深め、自由に解決案を提案し、共有する仕組みです。 ―市民の反応はいかがですか。 小川：好評です。例えば、消防団員の数が少なくなっているとの声から、操法大会のあり方を再考するなど、消防団の運営改革に着手して「消防団改善計画」を策定するとともに、市民の防災意識を高めることにも成功しました。ほかにも、千曲市の「こども基本法」に基づいて、「自分の意見が言えているか」との設問に中学生から回答をもらい、今後の政策に生かしていきたい。登録者数は増えていますが、さらに認知度を高めて、市民主体でまちづくりに関わってほしいし、そのきっかけになると思います。

PREV NEXT

• 
  ポリネコ！CHIKUMA
• 

―今後のテーマは何を考えていますか。 小川：小中高校生や教員、子育て世代に向けたテーマとして、子育て支援や教育環境、さらには防災など、いろいろと検討していきたいです。ポリネコ！CHIKUMAをきっかけに、カフェで市民と私が対話したり、中学生と校長先生がランチミーティングをしたり、その後の展開が広がっており、手応えも感じています。さらに2024年度には、千曲市を舞台にしたオリジナルアニメ「Turkey!」とのコラボ企画も実現しました。 ―アニメの舞台になるのですか。 小川：ネタばれになるので、アニメの内容については詳しくはお伝えてきませんが…。ボウリング部に所属する5人の高校生を描いた物語です。ポリネコ！CHIKUMAで設問に回答すると、オリジナルのスマホ壁紙がもらえるコラボ企画を実施しました。ほかにも、しなの鉄道の車両に、Turkey!のキャラクターを描いたオリジナルラッピング電車を運行しました（2024年7月）。アニメのヒットと、千曲市がアニメの聖地になることを期待します。 文化や学問・研究の活発化。ソフトの充実を図る ―市長が掲げる「文化伝承創造都市」とは。 小川：先に紹介した、温泉や棚田、あんず、蔵の街、ものづくり…といった町に息づく様々な「文化」を次世代につなげていこう、というものです。元からある価値を尊重しながら、この先を見据えた新しい価値も加えて、伝え続けていきたいと思っています。千曲市は、松本市方面に向かう中央自動車道、長野市や上田市、東京方面に向かう上信越自動車道が交差し、インターチェンジがあります。アクセスがいいことから、企業誘致も順調です。道路などのインフラ整備を進めてきましたが、今後はそれに加えて、歴史や文化の発展、子育て・教育支援など、生活を豊かにするようなソフト施策の充実を目指し、新しい文化を創造していきたいとの思いを込めました。

PREV NEXT

• 
  食と農の文化伝承講座の様子
• 
  昭和レトロな雰囲気が楽しめる戸倉上山田温泉
• 
  製造業も盛んな千曲市

―具体的に構想していることは。 小川：市民の声を丁寧に聞く手段として「ポリネコ！CHIKUMA」をもっと幅広い年代の人に知って利用していただき、まちづくりに生かしていきたい。千曲市の人口は、9年連続で社会増を達成しており、県内からの移住者が多いのが特徴です。アクセスの良さや企業が多く仕事が確保しやすい、雪が少ない気候、長野市と比較して価格などの面で住宅が購入しやすい、市内がコンパクトにまとまっていて、買い物やレジャーに便利…などの理由があると思います。ポリネコ！CHIKUMAにより、さらに住みやすいまちになれば、また移住者が増える―。そんな好循環が理想的ですね。 ―清泉女学院大学の新学部を誘致しました。 小川：清泉大学（旧清泉女学院大学）が、2027年度に新設する農学部のキャンパスが千曲市に開設されます。長野県の強みである、みそや日本酒、ワインなどの発酵・醸造の発展に関わる人材の育成のほか、農業の生産性の向上や就農人口の増加などの地域課題について学びます。市内にある農業・食品関連企業や農家、大学、行政の産官学の連携で農や食の発展につなげていきたい。また、若者の人口増加・定着にもなることを期待します。