安曇野らしい風景を残す最後の村ともいわれる。北アルプスの麓に美しい田園風景が広がる小さな村の中には、日常生活に必要な施設がそろい、アクセスもいいことから松本市や安曇野市のベッドタウンとして人気が高い。子育て・移住支援に力を入れており、年々、若い世代の移住者が増えている松川村とはどんなところか須沢和彦村長にお話を伺った。 小さな村に3つの駅。北アルプスの麓で便利に暮らす ―素晴らしい景色ですね。 須沢村長(以下・須沢)：私はもう見慣れてしまったのですが...、今日は見事な景色だったので、有明山をバックに写真を撮りました。12月の上旬は、うっすらと雪景色をする山々ですが、春夏秋冬と四季の移ろいを感じられます。「北の安曇野」とも呼ばれていて、雄大な北アルプスの麓まで田園風景が広がり、その所々に立派な屋敷林が残る、今では数少なくなった「安曇野の原風景」を醸し出しています。観光資源は比較的少ない村ですが、この景色が一番の観光資源といえるかもしれません。

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  水田の水鏡に映る有明山
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  村内には約100体近い道祖神が点在する

―この景色に憧れて移住してくる人も多いと聞きました。 須沢：移住者は増えています。昨年は、年間440人が転入されました。人口は、2024年中に65人増え、約9,700人。全国に村は183あり、人口では、松川村は12番目であります。安曇野の風景に憧れたものの、安曇野市や松本市は地価など住宅建設費用が掛かる為、近接する松川村を選んだ―というケースはあるかもしれませんが、アクセスの良さや充実した住宅環境・手厚い子育て支援など、実際に住んでみて、暮らしやすさを実感する人は多いようです。 ―住んでみて分かる村の魅力とは何でしょうか。 須沢：面積は約47km2とコンパクトな中に、商店やスーパー、学校、多くの医療機関など日常生活に必要な施設はほぼそろっている上、住宅地は平坦なので、歩いたり、自転車での移動が楽です。安曇野市や松本市には車で30~40分、JR大糸線の駅も3つあり、通勤・通学のほか、ショッピングなどにも便利です。村外からの移住世帯には最大で100万円、村内での転居にも最大70万円の支援制度があるほか、新婚世帯に最大60万円支援などがあります。また、18歳以下は医療費については、今年の4月から完全無償化する予定です。出産前から成人まで切れ目のない支援制度になっています。 「子どもは村の宝」から始まった子育て支援 ―手厚い子育て支援が若い世代を引きつけているようですね。 須沢：施設も充実しています。村役場隣には、子育てに関する相談窓口などがある「子ども未来センターかがやき」や、親子で遊べる広々とした芝生の「リンリンパーク」もあります。18歳以下の医療費無償化などは、子育て支援という言葉が一般化する前から取り組んできました。そこには「子どもは村の宝。村全体で育てていこう」との思いがありました。長い間続けてきた「子育て支援」が、結果的に若い世代を中心とした移住者の増加につながっていると思います。 ―住宅、子育て両面での支援は魅力的ですね。 須沢：昨年7月から小中学校の給食費の無償化も行っていますが、給食には村のコメ農家が作った減農薬の「特別栽培米」を提供しています。また、月1回は、無農薬で作った有機栽培米の日としています。「元気に、お腹いっぱい食べてほしい」と始めましたが、作っている農家さんの励みにもなっています。

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  子ども未来センター「かがやき」
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  子ども未来センター内の様子
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  リンリンパーク
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  地元農家が作った特別栽培米を学校給食で提供している

―米どころならではですね。 須沢：酒米の栽培も盛んです。松川村産の酒米で、県内の13蔵が日本酒を造っています。また、恐らく日本で一番新しい酒蔵「甍酒蔵」が村内に誕生しました(2024年12月現在)。村の酒米と北アルプスからの清涼な水にこだわった日本酒への期待は大きいです。将来的には1本10万円という、超高級の日本酒をラインナップするそうです。酒米の栽培は、コメの価格が低迷する中、コメの加工品に活路を見出そうと始まり、村待望の酒蔵が誕生したのは、村にとってうれしい成果だと思います。10年後の村の農地利用の予測では、そこでは、農家が農地を手放したり、任せたいという面積が約110ha、逆に新規就農や規模拡大などで約200haのニーズがあると見込まれています。将来的には農地の集約化も考えて、村の農業の維持、さらには発展にもつなげていきたいです。

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  2024年に新蔵を建設した「甍酒造」
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先駆的な取り組みでカーボンニュートラル実現を ―村の将来像をどのように描いていますか。 須沢：若い世代に選ばれていることはうれしいです。住宅やアパートの需要も好調で、宅地造成や、空き家の解体費用として上限100万円を支給するなどして住まいの供給を急ピッチで進めていきます。ただ、長い目で見ると人口減少は避けられないでしょう。その際に問題の一つになるのが自然災害への対応。自然災害が少ない地域ですが、災害時にはトレーラーハウスを避難所などにできるように、民間企業と協定を結びました。ほかにも、公共施設やインフラの維持・整備も課題になるはずで、近隣の自治体と協力して広域的に対応していきたい。人口減少を緩やかにして、人口が減っても持続可能な村づくりを考えていきたいですね。

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  空き家バンクで数多くの物件を紹介
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  手厚い住宅支援で全力サポート
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  トレーラーハウス（提供：株式会社カンバーランド・ジャパン）

―「日本一暮らしやすい村」は実現できそうでしょうか。 須沢：住民に皆さんにお約束した公約実現に向けて頑張りたい。子育て世代支援の一方で、高齢者の足を確保する一つの手段として、自宅と病院やスーパーなどをドアツードアで運行する「りんりん号」を無料化しました(事前予約)。また観光面でも、知名度が高い、「安曇野ちひろ美術館」、「国営アルプスあずみの公園」を訪れた人に「すずむし荘」などを利用して、松川村に滞在してもらえるような仕掛けも考えていきたい。それから、CO2排出量半減という目標の達成にも目途がつきそうです。

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  無料化した「りんりん号」
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  安曇野ちひろ美術館
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  安曇野ちひろ公園
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  大町市_国営アルプスあづみの公園（大町・松川地区）
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  すずむし荘

―どのような対策をとるのですか。 須沢：豊富な水源を生かした小水力発電を活用して、政府が目指す2030年度までにCO2排出量50%削減。さらに2050年度にはCO2ゼロを達成したい。村と東京の不動産会社、自然エネルギー事業を展開する企業と協働で、芦間川に3カ所の小水力発電所を稼働します。村は、ここで発電した電力分の「トラッキング付き非化石証書」を買うという流れです。これにより、年間CO2排出量の50%削減を達成できそうです。さらに、森林や林道などの地域整備や災害時の電源供給にもつながることも期待されます。