NAGANOの神々に会いに行く 太陽の光が弱まり、あらゆる生命の力が衰える冬だからこそ、寒さを吹き飛ばすほどに荒々しく、熱い祭りが繰り広げられている。やがてくる春の訪れを待ちながら各地で響く祭りの声に導かれて、長野県の冬の祭りに出かけてみてはいかがだろう。 天龍村の「霜月神楽」 正月早々の深夜、辺りが静寂に包まれる山間の地で、日本最古といわれる神事が行われる。国重要無形文化財指定の「天龍村の霜月神楽」は、谷を隔てた3つの集落の祭り「坂部の冬祭り」「向方お潔め祭り」「大河内池大社例祭」を合わせて呼ばれる。 霜月神楽は太陽の光が一番弱くなる霜月（旧暦11月）、魂の復活を神に祈る祭り。その中心となる湯立神楽は、神前に設けた釜に湯を沸かし、その周りで夜通し舞うことによって神に祈りを捧げ、煮えたぎる湯を素手で左右に払い飛沫を散らす神事。魂を授けられた神聖な湯により、人々は年中丈夫でいられるという。

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  向方お潔め祭り
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  坂部の冬祭り
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  大河内池大神社例祭

坂部の冬祭りでは、神々が現れ村人に魂を授ける「面形の舞」が繰り広げられる。最初に登場する「たい切りの面」では、赤鬼が大まさかりを振り回し、それを鎮めようとするの松明とぶつかり合って火の粉を散らす。向方お潔め祭りや大河内池大社例祭は、面形の舞はなく素面によって舞が行われる。扇・ヤチゴ・剣などの採り物を手に舞を奉納して神に祈りを捧げる。　 古くからの歴史を持つといわれる天龍村の霜月神楽。坂部に現存する「熊谷家伝記」によると、この地を開いた熊谷貞直が延文4（1359）年に諏訪神社を勧請。3代直吉のとき夢のお告げによって諏訪信仰に基づく神楽を始め、その後、熊野修験の行法を取り入れていった。現在、過疎に悩む山間の集落という厳しい条件のなか、集落が一丸となって祭りの伝承に努めている。 阿南町の「新野の雪祭り」 寒さの厳しい深夜、阿南町新野の伊豆神社に「らんじょう、らんじょう」の声が響くと、「新野の雪祭り」の山場「広庭の祭事」が始まる。雪祭りは雪を稲穂の花に見立て大雪（＝豊年）を願う神事である。　 舞台となる伊豆神社は、文永2（1269）年、伊豆から流れてきた伊東氏が伊豆山権現を勧請して創設。その後、室町時代にこの地を領有した関氏が生国伊勢の田の神祭りを真似て祭りを始め、古くは「御神事」「田楽祭り」などと呼ばれていた。大正15（1926）年、祭りを見学した国学院大学の折口信夫教授が「雪祭り」と名付け全国に紹介したことからこの名が定着した。

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「らんじょう」の声とともに、見物人たちが支度部屋の壁を棒で叩いて催促すると、大松明に火がともり神々が降臨して「庭能」が繰り広げられる。最初に登場するのは、柔和な面と赤頭巾に高く先のとがった冠を付け、松と扇を持って舞う「幸法」。続く「」は幸法を真似るが、対照的にきつい面立ちをしている。 最も人気の舞は、馬形を付けたふたりの舞人が鬼の持つ的に向かって矢を放つ「」。矢を拾って帰ると縁起が良いとされ、見物人たちの競い合いとなる。「お牛」は宮司が務める重要な神事で、拝殿の屋根と石段に向かって矢を放つ。これは神や精霊との媒介をするものといわれている。その後も多彩な舞が朝まで繰り広げられる。阿南町ならではの庭能は能や狂言など伝統芸能の原点ともいわれ、研究者にも深い示唆を与えている。 野沢温泉村の「道祖神祭り」 冬の夜空を赤く染める「野沢温泉の道祖神祭り」。社殿に火を放とうとする一般の村人と、守ろうとする厄年の25、42歳の男性たちとの間で行われる、火の粉舞い散る激しい攻防が見所の奇祭は、日本三大火祭りのひとつに数えられ国の重要無形民俗文化財に指定されている。　 これは「どんど焼き」のひとつで、初子の祝い、厄年の祓い、良縁祈願、子どもの成長や子宝祈願の祭りである。始まりについては明らかになっていないが、道祖神碑に刻まれた「天保十巳亥年」の文字や火元を務める河野家の「文久三年道祖神小豆焼帳」などから、江戸時代後期にはすでに盛大に行われていたと推測できる。攻防の舞台となる社殿づくりは針金や釘などはいっさい使わず、すべて手作業で行い、14〜15日にかけて組み立て、昼までに完成させる。

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午後8時30分、火元で点火された大松明が会場の道祖神場に到着すると、いよいよ激しい攻防戦が始まる。打ち寄せる松明を松の枝で払い、社殿を火から守ろうとする25歳の男性たち。火の粉が直に降り注ぎ、顔は煤で真っ黒になる。こうした激しい攻防が1時間半にわたって続けられた後、攻守双方の手締めによって社殿に火が入れられる。書き初めを吊るした笠鉾灯籠も火の中に入れられ、燃え盛る炎の爆音のなか、熱狂した村人たちの道祖神歌が響きわたり、やがて祭りは終焉を迎える。こうした厄年行事を勤めることにより、村の若者は初めて大人の仲間入りができるとされている。