中央・南アルプスに抱かれた伊那谷にあり、県内の町では最も人口が多い。農林業と電子・機械を中心にした製造業がバランス良く共存する。最近では、上伊那地域の水と自然を守る箕輪ダムが「もみじ湖」と呼ばれ、日本一の紅葉の名所に。教育にも注力し、町のブランド力の強化を図っている。2025年に町政70周年を迎えた箕輪町の白鳥政徳町長にまちの魅力について伺った。 もみじ湖、赤そばの里。貴重な観光資源を利活用 ―毎年秋のもみじ湖の紅葉は大人気ですね。 白鳥町長（以下・白鳥）：箕輪ダム建設の際に、ダムに沈んでしまった地域住民から寄贈された苗木を植樹したのが始まりです。1992年に箕輪ダム（もみじ湖）が完成して、現在約1万本のもみじが、素晴らしい景観を作り出すようになりました。ある国内の旅行予約サイトでは2024年までに５年連続で日本一の紅葉の名所に選ばれています。SNSの影響もあり、今では、海外からの観光客も増え、入場制限をするほどです。

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  紅葉が美しく、箕輪ダムは「もみじ湖」と呼ばれている
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―赤そばの里としても知られていますが。 白鳥：遊休農地の有効利用で始めたのが赤そばの栽培です。東京ドームほどの広さ約４haの栽培地は日本でも唯一。毎年９月下旬から１０月上旬になると、広大な赤いじゅうたんを広げたように華麗に色づき、観光名所にもなりました。もみじ湖の紅葉と同じように、地域住民のみんなで作った絶景。貴重な観光資源として、しっかり活用していきたいと思っています。

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  赤そばの栽培地は、今では南信州有数の観光スポットである
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―改めて、町長からみた町の魅力とは。 白鳥：長野県、日本のほぼ中央にあり、首都圏、名古屋圏にも約３時間の利便性の良さがあります。中央・南アルプスに抱かれ、町の中を天竜川が流れ、それに沿って「河岸段丘」と呼ばれる上伊那地域特有の階段状の地形になっています。段丘は、下段から住居や水田・畑などの農地を形成し、広い森林へとつながり、やがて中央・南アルプスに向かっていきます。この形状を生かした土地利用で、農業、工業などの産業、自然、住まいのバランスのとれた町になっていると思います。 働く場に恵まれ、環境を壊さない「田園工業都市」へ ―人口は県内の町の中では最も多いですね。 白鳥：町の人口は約25,000人（2024年）。働く場に恵まれていることが理由の一つだと思います。町内には工業団地が４カ所、1,000以上の事業所があり、うち約３割が電子・機械・自動車などの製造業です。農地も田んぼや野菜・果樹畑があり、再生困難な遊休・荒廃農地もほとんどありません。製造業（工業）、農業のバランスのとれた町づくりを今後もしていきたい。そのため町では、工業・農業・森林・観光…など各分野で目指すべき将来像である「ビジョン」を策定して、その実現に取り組んでいます。

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  南原工業団地

―県内でも有数の製造品出荷額を誇りますね。 白鳥：上伊那地域では駒ヶ根市、伊那市に匹敵します。今後さらに、生産性の向上や競争力・売上アップを促していきたい。そのため中小企業向けにDX（デジタルトランスフォーメーション）に関する推進事業補助金や相談員を設置しました。事業の効率化・省力化が中心だった「守りのDX」から、デジタル技術を使い、新製品・新サービスの開発やビジネスモデル改革など「攻めのDX」を目指しています。工場誘致を含めて、働く場（雇用）の創出を強めて、UIターンに弾みをつけたいです。

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  施設予約システム住民説明会の様子
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  ARスポーツ「HADO」の体験会の様子

―町が掲げる「田園工業都市」の環境（田園）については。 白鳥：2030年までにCO2半減、50年までにゼロカーボン（CO2排出ゼロ）を国や県は目標に掲げています。かなり高いハードルですが、次世代への責任と捉えて、「必要なことを今やる」との姿勢で取り組んでいます。具体的には、「箕輪町地球温暖化対策実行計画及びアクションプラン2022」を策定。庁舎の駐車場にソーラーカーポートを設置してクリーンエネルギーを創電しています。公用車のEV化や公共施設の電力の自給率を高める計画です。また、一般家庭向けにも、太陽光パネルや蓄電池の設置、住宅の断熱改修などに補助金制度(最大100万円)を設けて、町民・事業者・行政が連携して、「ゼロカーボンシティ」に向けて、頑張っています。

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  庁舎北側の駐車場に設置されたソーラーカーポート
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  EV公用車
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若者が町の魅力を学び、誇りを持てるように ―新設した「みのわBASE」の評判はいかがですか。 白鳥：町の防災・避難施設として2024年に完成しました。平時は地域のコミュニティ施設になっており、各種イベントの開催などで、多世代交流の場になっています。夕方には近隣の中高生の学習・交流の場としてにぎわっています。若者・子どもたちには、豊かな自然にとどまらない、箕輪町の魅力を自分なりに見つけて、自らの言葉で表現できる人になってほしいと願っています。こうした施設で多様な交流を持って、お互いを磨き合ったり、町の歴史や文化・社会などを学ぶ「ふるさと箕輪学」などを通して、知識・意識を高めて、町の存在価値を高めてほしいです。

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  みのわBASE1階の広々としたフリースペース
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  学習交流コーナーとキッズコーナ
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  カフェコーナー
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  図書・AVコーナー
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  箕輪町を知るきっかけとなる「はじめよう！ふるさと箕輪学」
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  小学校でのふるさと学習
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  小中連携事業の様子

―フェンシングの町として有名ですが。 白鳥：1978年の「やまびこ国体」のフェンシング会場になって以来、選手育成に取り組んできました。当時の国体選手が指導者として活躍してくれ、中学校で部活動が始まったり、ジュニアのクラブチームが発足するなど、途切れることなく地道に続けてきた成果として、オリンピアン（東京五輪出場・西藤俊哉選手）を輩出するまでになりました。間違いなく、フェンシングは町の誇り。2028年の国民スポーツ大会のフェンシング会場に選ばれ、体育館を整備しています。今後も、世界で活躍する選手が出てきてくれるとうれしいです。 ―課題については。 白鳥：伊那市や駒ヶ根市、諏訪市などの周辺地区に比べて、観光資源に乏しいためか、知名度が低く、町の発信力が弱いように感じます。そんな中で、「もみじ湖」の紅葉や赤そばの里を観光資源として利活用していきたい。２カ所とも、「自分たちがつくった日本一の場所」との自負は強いので、魅力がもっと多くの人に伝われば、町民の自信になると思っています。ただ、町では受け入れ態勢が十分ではないので、宿泊や食事、お土産など上伊那地域広域で協力して、人気が高まっていけばと考えています。また、先に述べた「みのわBASE」や「ふるさと箕輪学」をきっかけに、若者・子どもたちが改めて、町の魅力を再認識してくれることを期待しています。

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  ながた自然公園内にある温泉施設「ながたの湯」
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  コシが強く甘みが特長の「赤そば」
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  箕輪町での創業支援をしている「産業支援センターみのわ」

―将来像については。 白鳥：今後、地方創生を進める上でキーになるのが、農業と教育だと考えています。先に述べた通り、この町を形作っているのは農林業です。しかし、従事者が減る中、いかに農林業を維持・発展させていくのか―。町では、「農業応援団計画」を立て、農家とともに町民全員が農業に関心や責任を持ってもらうようにしています。学校給食を含めて「地産地消」を進めたり、土と触れあう「農のある生活」に勤しむなど、地道に取り組んでいくことが大切です。最近、市民菜園が定員になったり、「みのわテラス」などで、質のいい地元農産物が人気になるなど、町民の農業への関心の高まりを感じます。また、学校給食の地産地消率が野菜主要８品目で６割に達しました。農地の集約化の一方で、町全体で農業を守っていく意識をさらに高めていきたい。教育は、2023年に「子ども子育て応援条例」を策定。学校や保育園、親に加えて、地域で子どもを育てることを目指しています。ICTを率先して導入したり、町でもほかの自治体で一般的に行われている経済的な支援をした上で、「子育ては楽しいもの」という意識が大人全体に広がってほしいです。こうした地道な取り組みを続けることで、町の力が育まれ、魅力の発展につながっていくと考えています。