後世にも残していきたい荘厳な神社 森閑の中に佇む気高い神社には、凛とした空気を感じられ、パワーを充填してもらえるような感覚がある。不安が渦巻く混沌とした世の中だからこそ、地域を守り続ける神社で平和を祈ってみてはいかがだろう。 麻績神明宮本殿 麻績神明宮の創建は平安時代末期。伊勢神宮内宮領の、神社の領地（麻績御厨、荘園）を護る神社として、伊勢神宮の分霊をお祀りしたのがはじまりと言われている。 国の重要文化財に指定されているのは五棟。本殿、假殿、拝殿、神楽殿そして舞台。神事と娯楽を明確に分け神格化するために境内には神楽殿と舞台がそれぞれあり、また、本殿に独立し假殿が建てられているのには、古くから住民が御際神に対し畏敬の念を抱いていたことがよく伺える。 拝殿の奥にある「本殿」は、貞享元（1684）年、 大工の吉池勘之丞によって建立。桁行３間、梁間２間、銅板葺きの神明造りで 背面以外の３面に縁を廻し脇障子を設けている。神楽殿が元禄11（1698）年、假殿が宝暦10（1760）年、舞台が天明3（1783）年、拝殿が天保11（1840）年にそれぞれ建立。拝殿は彫刻や色彩などの装飾は施されていない簡素な造り。本殿西側の神明宮の假殿は桁行３間、梁間２間、茅葺きの神明造りで、独立して假殿が建てられているのは長野県内ではほかに例がない。 国重要文化財の五棟すべてが老朽化により土台が弱り、傷みが激しいため、平成24年度（2012年12月）から5年計画で大規模改修に着手し、現在は完了している。 若一王子神社 観音堂宮殿 鎌倉時代から室町時代にかけて市街地の骨格が造られた現在の大町市。かつて一帯を支配していた豪族の仁科氏によって都市計画が進められた功績だ。千国街道に面して商業区画の「市町（いちまち）」を形成。町屋の裏側には地元・鹿島川の清らかな水を飲料水用として引き、表側に川が流れる。この水を分配する要の位置が市街地の北の外れで、若一王子神社はそこに町の繁栄を願って祀られた。 神社は仁科氏が厚く信仰していた熊野権現那智大社（和歌山県）を分社したと伝えられており、御本殿は国の重要文化材に指定されている。神社でありながら境内には県宝に指定されている松本平では唯一の三重塔と観音堂が立つ。 　観音堂は拝殿と廊下で繋がれた場所にある茅葺の建物で建立は江戸時代中期の宝永3（1706）年。内陣に安置されている宮殿は入母屋造、妻入、横板葺で軒裏に垂木を使わずに軒の裏面に張る板に彫刻が施されている。細部の意匠は室町時代以来の工匠・金原周防守の18世紀初頭の作風を示す建造物。 筑摩神社 慶長15（1610）年に造立された筑摩神社拝殿。桁行三間梁間三間、入母屋造で屋根は柿葺のゆるやかな勾配で、訪れる者を和ませる。床の下には低い基壇を設けてあり、土台には石を廻してある。また柱は大面取りの檜材の角柱となっており、洗練された美しさを誇る。垂木の各所には、今も朱塗や黒漆塗の跡が残っている。建築当初には、軸部材は朱塗や黒漆塗が、木鼻・組物・蟇股には極彩色の文様彩色といった色鮮やかなもので華やかに仕上げられ、蟇股内部の彫刻は極彩色が使われていたと考えられる。 拝殿は県内では、純粋な桃山様式で建てられた社寺建築として唯一の遺構であるにふさわしく、建立にあたっては近畿地方から招かれた工匠によって行われたと言い伝えられている。特に印象深いのが拳鼻の彫り、実肘木の繰り型。各所に後世の改造の箇所が見受けられるのも特徴のひとつ。手から手へ、幾度となく修復を繰り返し大切に守られてきた、現代においても手本となる建築手法が随所に蘇る。また、本殿は松本小笠原中興の英主といわれる政康が永享11（1439）年に建築・寄進したもの。数回の補修を行なっているが、室町時代の手法は各所に残している。本殿は三間社流造で、松本地域の神社建築の中では最大。 熱田神社 南アルプスの麓に抱かれた伊那市長谷。古くから諏訪より高遠を抜け、遠州秋葉神社へ至る秋葉街道の重要な拠点であった。熱田神社は、国の重要文化財に指定されており、由来は尾張の熱田神宮に通じる。熱田神宮の御祭神である日本武尊は、長谷でも集落の鎮守として古くから祀られていた。武尊の徳を慕い地区を守護するを奉ったのが熱田神社の起源とされ、「信濃なる伊那てふ里の片辺にもめぐみあつたの神の御柱」と、南北朝時代の公卿である藤原成文の美しい歌も残されており、日本のふるさとの美を感じられる神社のひとつである。 本殿は宝暦13（1763）年に再建されたもので三間社入母屋造の趣のあるもの。木鼻の麒麟や肘木の彫刻は豪華絢爛な彫り物を得意とする彫り物師・関口文治郎によるもの。特に肘木の唐獅子や象、龍、獏など繊細かつ大胆な彫刻は、「伊那の日光」という別名を持つ。彫刻は彩色を施されることにより、なお一層立体感を持ち、いくら見ていても飽き足りないほどに魅了されそして圧倒される。本殿は明治時代に再建された茅葺の覆屋の中にあるため保存状態も高く覆屋と共に国の重要文化財に指定されている。 大磧神社舞台 東に南アルプス、西に伊那山脈とふたつの山に挟まれた南信州の小さな村・大鹿村。ここには、300年もの間、村人の半数以上が何かしらの形で関わり培ってきた地芝居「大鹿歌舞伎」が今に続いている。役者、裏方と大鹿歌舞伎に携わる形は違えども親から子へ、子から孫へと脈々と受け継がれてきた歴史を持つ。ルーツは江戸時代。明和4（1767）年の文献に残された記録がもっとも古いが、実際に演じられたのはそれよりもっと遡る。出雲阿国を始祖とする歌舞伎が完成を見たのは元禄時代。地方周りの芝居を見た大鹿の村人が感動し、まねごとをしたのが最初と伝わる。 昭和58（1983）年からは定期公演が始まり、現在は春（5月3日）は大磧神社の舞台で、秋（10月第3日曜）は市場神社の舞台でそれぞれ定期公演が上演されている。 昭和61（1986）年に村指定有形文化財に指定された大磧神社は木造二階建、切妻造り妻入、間口六間、奥行四間、太夫座・回り舞台付き。江戸時代後期の文政年間に再建され、昭和48（1973）年に改修され現在に至る。