おもてなしの心を伝えたホテルマン 人々を魅了する軽井沢の原点 近代の軽井沢の歴史は1886（明治19）年に始まる。中山道の宿場町として一時は栄えながら、時代の隆盛に飲まれつつあった当時の軽井沢を、カナダから訪れていた宣教師のA・Cショーはたぐいまれなる避暑地として宣教師仲間に紹介したのだ。 そんな軽井沢を現在のような憧れのリゾートへと押し上げたのは、万平ホテルだと言っても過言ではない。ショーと友人の東京大学教師の英国人、ジェームス・メイン・ディクソンが旅籠・亀屋（万平ホテルの前身）に滞在した際、主人の佐藤万平は見よう見まねで作ったパンと魚のフライを西洋料理として提供。言葉が通じないながらも、一生懸命もてなそうと体当たりのサービスをする姿に、ふたりは大変満足し、軽井沢の想いを深めたという。

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以来1世紀以上もの間、軽井沢を愛する人々にとって欠かせない存在となっている万平ホテルは、外国人や政財界、文化人、アーティストが逗留し、軽井沢の象徴ともいうべき役割を果たしてきた。創業130周年の2024年には大規模な改修工事が行われてリニューアル。クラシックホテルならではの安らぎに満ちた空間や、ホスピタリティは受け継がれ、これからも訪れる人々を魅了し続けることだろう。

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  2024年リニューアルオープン予定
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［軽井沢のレジェンド_ふたりの佐藤万平］ 万平ホテルのホスピタリティは、ふたりの重要人物によって築かれた。万平ホテルの前身である旅籠「亀屋」でディクソンとショーを手厚くもてなした初代万平（写真右端）と、その後を継いだ初代万平の娘婿で、2代目万平となった国三郎（写真中央）である。ふたりの万平が伝える「おもてなしは心なり。ホテルは人なり」という万平スピリッツは、今もホテルスタッフに引き継がれ、万平ホテルの伝統として大切に守られている。 軽井沢を愛した異国人 年間800万人が訪れる国際的避暑地 軽井沢町の人口は約1万9000人。そこへ毎年人口のおよそ400倍、800万人近い観光客が訪れている。特に夏季(6~8月)は顕著で、夏休み中の旧軽銀座などの人出を体験すれば、観光地としての人気ぶりはすぐに体感できる。長野新幹線の開通や、JR軽井沢駅南口のアウトレットモールのオープンを契機に、冬季(12~2月)でも70~80万人の観光客が訪れるようになった。 避暑地・軽井沢の人気は昭和初期から根強い。高度成長期からバブル期にかけては、テニスラケットを抱えたリゾートウェアの学生グループが銀座通りを練り歩き、一時代を築いていた。ビートルズ解散後のジョン・レノンが毎夏を家族とともに訪れるなど、有名人の来訪もその人気に拍車をかけていたようだ。遡れば、上皇上皇后両陛下の「テニスコートのロマンス」が話題となった時代。誰もがプリンセス誕生にまつわる高原の地に、憧れを抱いていた頃だった。 簡素な避暑地から
華やかな社交場へ 大正期、夏の軽井沢は政財界著名人たちの社交場であった。別荘を構えた人の名を挙げれば、西園寺公望や大隈重信、近衛文麿ら、そうそうたる顔ぶれが続く。標高1200mの峠を越えた別天地で、彼らはスポーツや茶会を通じてざっくばらんに交流を深めていたという。皇太子殿下（現在の上皇陛下）が民間の女性と出会い、恋を深めても不思議ではない下地は、その頃から育まれていたのだ。 日本人有力者の別荘は、1893（明治26）年に建てられた海軍軍人・八田雄二郎を筆頭に、離山、千ヶ滝地区などの開発から急激に増えていく。けれどもそれ以前の軽井沢はもっぱら、布教活動に勤しむ宣教師や海外の大使館員のための場所であった。その豊かな自然をもってA・C・ショーから「屋根のない病院」と謳われた軽井沢は、避暑文化の根付いた西欧の人々にとって、なくてはならない場所だったのだろう。清らかな水や澄んだ高原の空気、豊かな緑。彼らはブルジョア的なイメージとはほど遠く、簡素かつ堅実に、祈りと共に夏の暮らしを営んでいたようだ。 軽井沢ショー記念礼拝堂 カナダ生まれの英国聖公会宣教師A.C.ショーは、1886（明治19）年に避暑地軽井沢を見いだし、恩父として慕われた。1908（明治41）年、地元住民が教会の前庭に「ショー氏記念碑」を建立した。毎日曜には厳かに礼拝が行われている。 ［軽井沢のレジェンド①＿A.C.ショー］ カナダ出身の宣教師。明治19（1886）年、布教活動のさなか中山道の宿場町であった軽井沢を通りかかった際、故郷のカナダ・トロントに似た風光に魅せられたショーは、明治21年に大塚山へ別荘「ショーハウス」を建てる。宣教師仲間の友人にも軽井沢を避暑地としてすすめたことから、外国人の別荘が増加し、今日に至る軽井沢発展のきっかけとなった。 ［軽井沢のレジェンド②＿ジョン・レノン］ イギリス・リバプール出身のミュージシャン。ロックバンド･ビートルズのメンバーで、ボーカル･ギターを主に担当。日本人女性オノ・ヨーコと結婚したことから頻繁に訪日。小野家の別荘がある軽井沢で夏を過ごした。万平ホテルの本館2階にも宿泊し、ホテル内の史料室にはジョンが欲しがったといわれるピアノなどが収められている。