宮内庁御用達のブランド鯉に 滋養に満ちた郷土の味覚 佐久市の郷土食として名高い佐久鯉は、佐久地域の清涼な流水池で育てられる。他の産地では通常2年で出荷するところを、3年を経て出荷されるのも特徴だ。冷たい清水で時間をかけて育てられた鯉は、臭みのない、引き締まった肉質に育つ。地元では古くから、この美味な魚をお年取りや祭りのご馳走として振舞ってきた。「鯉こく」や「うま煮」にはそれぞれ家庭の味があり、親から子へと伝えられている。 鯉は、たんぱく質や脂質、ビタミン、ミネラルなどを含み、利尿効果や肝機能の改善、冷え性などにも効果があるとされている。滋養に満ちた鯉は、妊娠中のむくみを改善し、母乳の出を良くするとして、昔は「お嫁さんに食べさせると良い」と言われてきた。また、肝臓に良いとされるタウリンを多く含み、胆石の予防に効果があることや、血中コレステロールを低下させる作用があることなども知られている。全国有数の長寿の里・佐久にあって、健康を維持する秘訣は、鯉を多く食べることにもあるのかもしれない。 ［佐久鯉のレジェンド①＿臼田丹右衛門と内藤豊後守］ 佐久に鯉が伝わった歴史には諸説がある。文禄年間（1592～1596）にはすでに天然鯉の増殖が行われ、江戸初期には伊勢神宮神官や小諸藩主に鯉料理を献上したという記録も残っている。現在の「佐久鯉」のルーツは、「近江鮒に淀の鯉」とたたえられた「淀鯉」を持ち帰ったことに始まる。天明年間（1781～1788）には桜井地区の呉服商・臼田丹右衛門が、また文政8（1825）年には岩村田藩主・内藤豊後守が大阪城勤番を終えて帰国する際に持ち帰ったという。 歴代首相も訪れた〝登竜門〟の名店 全国ブランドの「佐久鯉」へ ブランド商品として「佐久鯉」の呼称が決まったのは1930（昭和5）年のこと。当初は「野沢 鯉」、「中込鯉」、「桜井鯉」など地名を冠して呼ばれていたが、全国的に知名度が上がったことから統一したものだ。大正期から昭和初期にかけては佐久鯉の黄金期ともいうべき時代。東京への出荷が始まり、野沢地区で全国初の養鯉品評会が開かれたほか、天皇即位の御大典には佐久鯉1000尾が宮内庁に奉納された。同時期に活魚水槽などの設備を整えた専用貨車が開発されたことも「宮内庁御用達」の佐久鯉が全国に広まる契機となったようだ。 水田を使って稚魚を育てる佐久独特の養法は、江戸時代から行われていた。田んぼに鯉を放ち、害虫や水草を食べさせて米作りに役立てながら、年貢のかからない鯉を出荷する一石二鳥の方法だったのだ。地元の記録には、各戸の農家が備えていた越冬用の池や天秤を肩に担いで魚を集める「平拾い」の様子が残っている。 水田整備などで養殖池が減り、出荷・販売量も減少傾向にある佐久鯉だが、近年、優れた栄養価が再評価され始めている。地元小学生の調べ学習から佐久鯉を復興させるプロジェクトが始まるなど、地元でも佐久鯉ブランドを見直す動きは盛んになってきた。滝を登り龍となる鯉の伝説のように、佐久鯉の名は今後も時代の激流を縫って、後世へと力強く泳いでいくはずだ。

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［佐久鯉のレジェンド②＿竹廼家］ 千曲川のほとりに佇む竹廼家は創業100年を超える川魚料理専門の老舗。鯉料理は立身出世の象徴として縁起が良いため、昔から地元の名士はもちろん、中央からも政治家や有名人が訪れてきた。廊下には「一郎」「栄作」など、ファーストネームだけを署名した歴代首相の色紙が並ぶ。名物は甘辛いタレが絶妙なハヤの唐揚げと、大きな鯉を丸ごと背開きにして焼く鯉の塩焼き。じっくり炭火で焼いた鯉は、香ばしい風味がいっそう美味。