繁栄をもたらした製糸業 信州の産業の源は蚕種業と言っても過言ではない。リンゴ栽培と並んで桑の栽培が盛んで、良質な桑は蚕のエサとなり、上質な絹を生み出して行った。江戸の世の開国とあわせて欧州へ、良い桑を食べた蚕が最上級の繭となり、諏訪湖畔一帯、上田、須坂など歴史に名を残すシルク王たちが台頭。彼らの豊かな資金力と技術力を持って信州の産業を支えた。 ①（財）片倉館 昭和初期に製糸王の片倉氏により、製糸工場の工員のための福利厚生施設として立てられた温泉施設。深さ1.1mの千人風呂の浴槽の底には玉砂利が敷かれ、足の裏への刺激が心地良い。レトロな洋館にも味がある。 ②旧林家住宅 製糸業発展期の製糸家・林国蔵の旧宅で、別名「シルクと金唐紙の館」と呼ばれる。金唐紙を張り巡らせた座敷は見事。平成14年に国の重要文化財に指定され、平成19年に経済産業省の近代化産業遺産に認定された。 ③旧上田蚕糸専門学校講堂 養蚕で栄えた上田市に明治44（1911）年に開校された全国唯一の官立蚕糸専門学校。現在は、信州大学繊維学部講堂となっている。下見板張りの木造建築で、いたるところに蛾や繭、桑などの彫刻があしらわれている。 ④塩野浄水場 大正15（1926）年に竣工された須坂市にある浄水場。コレラやチフスの流行を機に飲用水や製糸用水の使用が禁止され、製糸工場が休業に追い込まれたのが契機となった。大正期らしい洋を取り入れたデザインが新鮮。 ⑤旧昭和興業製糸場 野外博物館「松本市歴史の里」内にある施設。下諏訪町から平成8（1996）年に移築復元された、製糸工場で、建物だけでなく設備・機械類すべてをそのまま移築・復元する「動態保存」がされている点が特徴となっている。 世界に誇る信州のリゾート 南北約200km、東西約128km、2000m～3000ｍ級の山々が、美しい稜線を惜しげもなく見せて連なり、森林の面積が8割を締め空気の澄んだ信州。高原エリアの夏の涼しさ爽やかは群を抜く。県内はどこを切り取っても素晴らしいリゾート地でもある。中でも志賀高原・軽井沢・上高地は歴史ある信州が世界に誇れるリゾート地。 ①志賀高原 大沼池バス停より徒歩約1時間。標高1600m以上にあり、強酸性のため魚類は棲めないという神秘の池には、志賀高原の守り神である大蛇が棲んでいたという。中野の領主の娘・黒姫に恋をした黒姫伝説が残り、池には大蛇神社が祀られている。 志賀高原の開発を提言した『佐久間象山』 弘化元（1844）年に沓野・佐野・湯田中の三村利用掛の役職に就いたことから、志賀高原を実地調査し、鉱物資源や温泉を発見。地元民との利害対立から沓野騒動が起こるが、昭和44（1969）年には丸池のそばに象山の顕彰碑が建てられた。 ②軽井沢 カナダ生まれの英国聖公会宣教師A.C.ショーは、明治19（1886）年に避暑地軽井沢を見いだし、恩父として慕われた。明治41（1908）年、地元住民が教会の前庭に「ショー氏記念碑」を建立した。毎日曜には厳かに礼拝が行われている。 軽井沢を避暑地としてすすめた『A・Cショー』 故郷のカナダ・トロントに似た軽井沢の風光に魅せられたカナダ出身の宣教師ショー。明治21（1888）年に大塚山へ別荘を建て、友人に軽井沢を避暑地としてすすめたことから、外国人の別荘が増加し、避暑客が多く訪れるようになった。 ③上高地 梓川に架かる木の吊り橋は上高地のシンボル。初めて橋が架けられてから現在は5代目。幅3.1m、長さ36.6mの橋の上から眺める穂高連峰、焼岳の姿、橋の下を流れる梓川の清流は素晴らしく、上高地でも屈指のビューポイント。 松本市安曇上高地　 アルプス観光協会 上高地の魅力を世界に紹介した『ウォルター・ウェストン』 明治時代に日本を訪れ、上條嘉門次の案内で上高地や乗鞍岳、槍ヶ岳に登ったイギリス人宣教師ウォルター・ウェストン。日本アルプスの魅力を世界に紹介し、上高地を有名にした功績から「日本近代登山の父」としてたたえられている。 教育県信州の学び舎 周囲8県に隣接する信州。海が遠く、肥沃な土地が少なく、山間地が多く、外からの情報が入りづらい環境下でもあった。けれども信州人は、「無いものは、作ればいい。知らないことは誰かが学び、それを教え、知ればいい」とひるまない。学ぶ姿勢は、往時の建物にも垣間見られる。今もなお威光を放ち往時を知る大切な機会が残されている。 ①旧開智学校 明治9年建造の日本最古の洋風校舎。風見鶏をつけた八角塔、玄関のギヤマンのステンドグラス、講堂のシャンデリア風の燭台などに異国情緒が漂う。保存される明治から大正の教育資料は、質・量ともに日本一といわれる。 ②鐘の鳴る丘集会所 昭和22（1947）年から放送されたNHKラジオドラマ『鐘の鳴る丘』が映画化された際、この建物が舞台となったことから一躍有名になった。時計塔からは1日3回『鐘の鳴る丘』の主題歌が流れる。青少年の研修施設のため一般の入館はできない。 ③旧山辺学校 同じ松本に立つ旧開智学校が色ガラスをはめ込んで「ギヤマン校舎」とよばれるのに対し、こちらは「障子学校」とよばれた。八角塔やシンメトリーの外観に洋の要素が見られる一方、ところどころに和風建築の趣が感じられる。 ④旧中込学校 明治8（1875）年に完成した、全国で最初の擬洋風校舎。中央の八角塔から太鼓を吊るし、時を告げていたので、太鼓楼とも呼ばれていた。２階の中廊下にある丸窓のステンドグラスも見事。国指定の重要文化財。 ⑤旧格致学校 明治11（1878）年、県内3番目に建てられた擬洋風建築の旧格致学校。建築には、官林だった村内の御堂山の木を払い下げて材にし、縄1本まで住民が持ち寄ったというから、教育への意気込みが伝わってくる。 ⑥旧園里学校 明治16（1883）年、それまでの平屋校舎の増築として建てられた擬洋風の旧園里学校。以来46年間、近在の学童の学び舎として使用され、昭和4（1929）年からは旧豊丘村役場として利用された。2階は資料館として公開されている。 ⑦中野小学校旧西校舎 信州中野銅石版画ミュージアムとして使用されている中野小学校旧西校舎。昭和56（1981）年度で取り壊されることとなったが、市民やOB・OGによる保存運動が起こり、一部が保存されて一本木公園内に移転・復元された。